痛みは信頼関係と密接な関係にあります。痛みの度合いは精神状態によって、まったく異なるのです。特に歯の痛みに関しては、体の他の部位に比べても、「精神状態から来る痛み」が起こりがちです。
歯を削る時の「キィーン」という音を聞くと、どんな患者さんも多少は緊張するものではないでしょうか。その緊張が心理的な痛みを生じさせるのです。わかりやすくいえば、痛みがあるように感じてしまう、いわば幻のような痛みなのです。この「幻の痛み」を取り除けば、患者さんはそれほど痛みを感じなくなります。
問題はどうすれば取り除けるか、です。患者さんの緊張を解きほぐし、体と心をリラックスさせることができれば、取り除くことはできます。しかしそれには、お互いの信頼関係が大前提なのです。
お笑い芸人を例にとりましょう。漫才コンビの片方が、「お前はアホか!」などといわれながら頭をたたかれたりする光景はよくあります。この時、たとえアドリブであったとしても、たたかれた方の芸人はさほど痛みを感じていません。なぜなら相手に対して心からの信頼を抱いているからです。
しかし同じことが真っ暗な夜道でいきなり起こったらどうでしょう。まったく同じ痛みが、驚きと恐怖を伴って何倍にも感じられるはずです。そもそも患者さんは「ここの歯医者さんで大丈夫なんだろうか?」という不安と緊張を抱えて歯科医院のドアを開けます。つまり、夜道を歩いているようなものです。そこへきて、ごく簡単な説明だけでさっさと治療を始めてしまったら、よけいな痛みを感じて当然です。
歯科医は患者さんとの信頼関係を築くことからはじめるべきでしょう。患者さんの質問にはていねいに答え、治療についてのことなども、患者さんが納得できるまで十分に説明していくことが大切です。これは時間を要することですが、最初に信頼関係を築いてしまったほうが結局は患者さんにとっても医師にとっても満足のいく治療が可能になるのだと考えます。
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