口腔疾患が全身に及ぼす影響もさることながら、全身疾患が口腔の疾患へのリスクファクターになるケースも多々あります。臨床現場では、どちらかというと全身疾患の口腔への影響について考えさせられることも多いのではないのでしょうか。
口腔に影響を及ぼす全身疾患といえば、糖尿病や肥満、内臓脂肪症候群(メタボリック シンドローム)、骨粗鬆症、免疫系疾患などがあげられますが、これに加えてホルモンバランスの変化や喫煙、ストレスといった要因も口腔疾患、特に歯周病に深く関連しています。
さらにシェーグレン症候群や貧血、うつ病や心身症など自律神経系の障害や放射線治療の影響で口腔乾燥を招き、それが口腔疾患のリスク要因になることも多いとされています。
また全身疾患のための服薬による副作用によっても口腔乾燥は起こるので、患者の全身疾患の現病歴、既往歴、服薬状況などもしっかりと把握しておく必要があるでしょう。歯周病は腎障害、網膜症、神経障害、大血管障害、末梢血管障害に次ぐ糖尿病の第6の慢性合併症とも言われています。
近年その深い関連性はさまざまな研究から明らかにされてきており、右記の図にあるようなリスク要因から歯周病を発症、そして増悪させるといわれています。特に肥満を伴う糖尿病患者では、TNF-αという物質が脂肪細胞から多量に産生されますが、これは受容体を介して糖の取り込みを阻害しインスリン抵抗性に関与しているといわれています。
TNF-αは、歯周病原細菌の細胞壁に存在するLPS(リポ多糖)により誘引され、炎症巣からも産生されるため、さらにTNF-αが増加し、よりインスリン抵抗性が悪化するなど歯槽骨吸収との深い関わりが注目されています。そのため、近年では糖尿病患者だけでなく、肥満も歯周病に関連しているといわれ、歯周病もまた内臓脂肪症候群(メタボリック シンドローム)の1つの指標であると言えるでしょう。
歯周炎局所に抗生物質を用いて歯周病原細菌を抑制すると血中TNF-α濃度が有意に低下し、それに伴いインスリン抵抗性が改善するとともに、HbA1c 値(高血糖状態が長く続くと増えるので長期的な血糖管理の指標に用いられる)も低下することが報告されています。すなわち糖尿病や肥満は、歯周病のリスク要因であるとともに、歯周病を放置すれば糖尿病の病状が悪化する可能性があるということになります。言い換えれば、歯周病の治療をすることにより糖尿病のインスリン抵抗性を改善するということになり、糖尿病に苦しむ患者には大きなモチベーションとなるでしょう。
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