上あごに比べて下あごが前に出ている受け口(下顎前突症)は、手術で治せる。東京歯科大学水道橋病院の柿澤卓・副院長(口腔=こうくう=外科)は「物をうまくかめるようになり、発音も良くなる。手術の前後には歯列矯正もして、歯並びもきれいになります」と話す。
あごの発育は体に比べると遅く、成長とともに予想もしなかった顔の形になる場合もある。受け口はその典型で、赤ちゃんのころから受け口だった人はいない。下あごが前に出始めるのは小学校の高学年くらいからで、空気が漏れるような声になったり、不自然な歯の使い方で食べ物をかんだりするようになる。
受け口で手術の対象となるのは、食べ物をうまくかめないか奥歯などの一部分でかんでいる人や、発音に障害がある人。手術は、あごの発育が終了する18歳くらいから可能だが、歯列矯正などの関係で30歳くらいが上限となる。
かむのもしゃべるのも歯並びに左右されるので、あごの形だけを変えても、歯並びに変化がなければ治療したことにはならない。このため、東京歯科大水道橋病院では、手術後の形を予測して、手術前に1年ほどかけて歯列矯正を行う。手術の日程は、歯列矯正の進み具合によって決まるが、例えば夏休みに合わせるといったこともできる。
手術は、あごの骨を切って少し削り、後ろにずらす。顔には傷を付けず、口の中から手術する。基本は下あごだけの手術だが、発育不全などで上あごにも問題がある場合は、上下とも手術する。この場合は、前もって自己血輸血をして出血に備える。
術後は、切った骨がずれないように、4週間ほど上下の歯を縛り合わせてあごを固定する。このため1週間は鼻から、その後は歯の間から流動食を取る。入院は、約1週間。退院後は日常的な軽い動きができるので、自宅でじっと寝ている必要はない。2カ月ほどで骨が安定すると、その状態に合わせて再び歯列矯正をします。期間は術前より短い半年ほどです。この手術は、矯正も含めて健康保険が適用される。近くの歯科大学付属病院で相談するとよいだろう。