直径100ナノメートル以下という極微小のオゾンの気泡を含む水を歯周病治療に応用する試みが始まっている。「オゾンナノバブル水」と名付けられたこの水は、塩素系の殺菌剤と比べて10~30倍という強い殺菌力を持つ一方、飲用も可能なほど安全性が高いという。歯周病の治療時や、治療後のうがいに用いることで、口内の歯周病菌を抑制できると期待されている。
歯周病は、歯と歯肉の境界部分に付着した口内細菌の集合体「バイオフィルム」や、これが硬く変化した歯石が原因となり、歯を支える歯周組織が破壊される炎症性疾患だ。進行すると、歯と歯肉の隙間(歯周ポケット)がどんどん深くなり、炎症が歯槽骨などの深部にも及んで、ついには歯が脱落してしまう。
治療では、スケーラーという器具でバイオフィルムや歯石を削って除去するが、その際にオゾンナノバブル水で歯周ポケット内を洗浄したり、治療後、継続的にうがいをしたりすることで高い効果が得られるという。
「ナノバブル」とは何なのか。生成方法を民間企業と共同開発した産業技術総合研究所 の高橋正好主任研究員によると、通常の気泡は水中を急速に上昇し、水面で破裂して消える。また、これより小さい直径50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の「マイクロバブル」と呼ばれる気泡は、ゆっくりと上昇しながら縮小し、最後は完全に水に溶けて消滅する。
これに対しナノバブルは、マイクロバブルの縮小がある段階で中断したもので、長期にわたって水中に安定的に存在し続けるという。「水に溶けるはずの泡が消えずに残る。これは常識では考えられなかったこと」(高橋さん)だが、研究の結果、仕組みが分かってきた。
「マイクロバブルの縮小過程で、水に含まれるイオンが気泡の周りに高い濃度で集積していく。すると、集まったイオンが”殻”となって、内部の気体が水に溶けるのを妨げる」と高橋さんは解説する。
マイクロバブルに特殊な方法で刺激を加え、ナノバブルを効率よく作る方法を開発した。オゾン以外でも酸素ナノバブル水などの研究が進み、幅広い応用の可能性が示されている。オゾンの持つ強力な殺菌力を泡に閉じ込めたナノバブル水。紫外線を防ぐなど、適切に保管すれば年単位で効果が持続する。使い勝手の良さもあり、導入する歯科医が増えつつあるという。
一方、インターネット上には通信販売の広告も散見される。荒川さんは「ばらばらの菌に対しオゾンナノバブル水はよく効くが、バイオフィルム自体を壊す効果は無い。うがいさえすれば歯周病が治るわけではない。きちんと歯科医に通い、治療を受けた上で使うべきだ」と呼び掛けている。