歯・口には、食べる・話すという基本機能があります。食べて栄養として吸収するためには、丈夫な歯で食物を細かく咬み、飲み込むことが必要です。これらの生理的な動作以外にも、大きな力を使う際には奥歯をかみ締める必要がありますし、コミュニケーション上では、話す際の美しい発音や表情にも関わります。また、最近では、歯周病など歯を失う病気が認知症や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病との関連性もうたわれていますから、オーラルケアは、体全体をも守る「健康投資」と言っても過言ではありません。
厚生労働省や日本歯科医師会が推進する8020運動などの効果もあり、現在では、生活者の歯の健康意識が向上し、店頭には、たくさんのオーラルケア関連製品が溢れています。しかし、それ以上に、就労形態や食事、睡眠などの生活スタイルがさまざまに変化し、歯と口内に関する悩みが尽きることはありません。生活変化・市場変化に伴って、オーラルケアのニーズは大きく2つの方向で進化を続けています。
家族みんなが同じ歯磨き粉を使う一律のケアから、それぞれの年代・性別・症状に合わせた「個人別」のケアが求められています。歯肉炎や口臭、歯茎の老化、ホワイトニング歯の健康から美容まで悩みは細分化し、その原因の違いや改善方法を比べ、自分に合うケアを捜し求めているのです。歯の表面のブラッシングから、歯の間や歯茎の溝ケア、さらに舌苔や口内全体のケアなど、一口にオーラルケアと言っても、その範囲や工程は、ますます広がっています。
成熟市場とも言われるオーラルケア分野ですが、小林製薬は、この2方向の進化によって、「オーラルケア」の潜在ニーズ・未充足ニーズは、まだまだ多く、新たな需要を創造することができると考えています。生活者ニーズを掘り起こし、市場を創造し続けてきた小林製薬のマーケティング力が、最も活かせる分野だと言えます。
歯間清掃具市場が拡大するなか、生活者調査を重ねると歯間ブラシに対する「歯ぐきを傷つけたくない」というニーズを発見。その解決策としてゴム製の「やわらか歯間ブラシ」を発売しました。現在では歯間清掃具ブランドトータルで売上23億円にまで成長しています。
これまでの入れ歯洗浄剤は、他社も含め「付着した“汚れ“をいかに除去できるか」という、洗浄力が製品戦略の要でした。果たしてニーズは洗浄力だけなのか? 他に隠されたニーズはないのか。入れ歯洗浄を恥ずかしがる生活者も多い中、丁寧に対話することで、「タフデント」の潜在ニーズを探ろうとしていた時、ある生活者がこんな発言をされました。
殺菌・消毒のために使っています。洗浄剤で落としたいのは「汚れ」ではなく「菌」だと言うのです。この声をきっかけに、その後もヒアリングを重ね、「タフデント」のコンセプトを「洗浄」から「除菌」へ大胆にリニューアルしました。その結果、生活者に受け入れられ、1995年に13億円だった売上は、現在17億円と拡大を続けています。