医療面接は嚥下障害の発症時期、原因、部位およびその程度を推定するために極めて重要です。唾液の口腔内貯留や食塊の口腔内残留などの訴えからは舌の送り込み障害が疑われ、嚥下動作前の流れ込みは舌による食塊保持能力の低下や咽頭期嚥下の惹起不全が、咽頭部の停滞感では食道入口部の開大不全や喉頭挙上障害あるいは食塊に加わる嚥下圧の低下が推定されます。
また食事中のむせからは誤嚥が疑われ、かつ咳嗽反射は喪失していないことが推定されます。摂食中の鼻腔内逆流を訴える場合には鼻咽腔閉鎖不全や食道入口部の開大不全が疑われます。患者様によっても異なりますが、一般に嚥下口腔期の障害では固形物が、嚥下咽頭期の障害では液体が嚥下障害を起こしやすいとされ、嚥下しやすい食物や姿勢からは障害の部位が推定されると同時に障害に対する患者の適応能力を把握することができます。
体重の増減も必ず聴取するべき事項で、体重減少中の時期には、栄養摂取方法や摂取量を変えたり、疲労を伴う積極的な嚥下訓練は暫く控えることを考慮する必要があります。また肺炎の既往がある場合はいわゆる不顕性誤嚥も含め誤嚥(気管内侵入)の可能性が疑われます。
視診および触診は嚥下に関与する神経筋群の障害の程度や各器官の形態や運動能を評価するために行ないます。まず嚥下に関与する器官について形態異常の有無を一通り診査した後、口唇・頬部については柔軟性と運動能および知覚異常と流涎の有無、舌については運動能および知覚異常と攣縮の有無、顎運動の異常の有無、発声時の鼻腔からの呼気漏出の有無、軟口蓋の挙上運動と知覚、唾液分泌、咽頭部の知覚異常と嚥下反射の有無、頸部の可動性などを調べます。