妊娠中は女性ホルモンの影響で、歯周病原細菌が増殖しやすい状況になっています。また、つわりのため歯ブラシを使うことができなかったり、食生活が変化するなど、妊娠中はう蝕(虫歯)や歯周病になりやすいといえます。工夫をして、口の中を清潔に保つように心がけましょう。
妊娠すると歯がボロボロになる」とよくいいますが、これは本当なのでしょうか? 歯の主成分であるカルシウムが赤ちゃんに取られて、お母さんの歯がもろくなると考える人もいるようですが、これは誤りです。確かに、おなかの赤ちゃんの成長に必要なカルシウムはお母さんから供給されますが、食事で摂取したカルシウムが血液中からへその緒を通して移行するため、歯からカルシウムが溶け出しているわけではありません。
とはいえ、妊娠中にう蝕(虫歯)や歯周病になりやすいのは事実です。妊娠初期のつわりによって口の中が酸性に傾いて歯が溶けやすくなったり、歯磨きの際に吐き気を感じて十分に歯ブラシを使うことができず、歯垢(プラーク)を取り除くことができない場合があります。また、一度にたくさん食べられずに食事の回数が増えるなど、食生活の変化が影響することもあります。
さらに、妊娠すると歯と歯肉(歯ぐき)の境目にある歯肉溝(しにくこう)から女性ホルモンが分泌されるのですが、歯周病原細菌のなかには、この女性ホルモンを栄養源としているものがあります。妊娠に伴ってこれらの細菌が急激に増えるため、歯肉(歯ぐき)の出血がでやすく炎症が悪化しやすくなります。
ffenbacherら(1996年)は、妊娠中に歯周病になると、早産や低体重児出産のリスクが高まるという報告を最初にしました。その米国の調査では、歯周病の妊婦は、そうでない人に比べて早産・低体重児出産のリスクが約8倍(全母親では、オッズ比(OR)7.50、95%信頼区間(CI)1.95-28.8、初産の母親では、OR 7.93、95%CI 1.52-41.4)高いという結果が出ています。これは、一般的に早産の原因として挙げられる喫煙やアルコール摂取などよりも高い数値です。このことが、米国マスメディアでも大きく取り上げられ、歯周病と早産や低体重児出産との関係を調査する研究が世界各国で本格的に始まることになりました。
わが国最初の報告(Hasegawaら、2003年)では、鹿児島大学のグループが、切迫早産と診断された妊婦では、正常分娩妊婦に比べて、歯周病原細菌の割合の上昇と血清中の炎症性物質の亢進が認められています。
その後の多くの報告をもとにしたメタアナリシス研究によると、歯周病の早産や低体重児出産に対する危険度は、2.83倍、早産だけでは2.27倍、低体重児出産では4.03倍となっています(Vergeら、2007年)。しかし、最終的な結論を出すには、十分に計画された大規模研究が必要です。