肺がんはがんの中で最も死亡者数が多い。年間6万人以上が亡くなっており、5年後にはこの倍以上に増えると予測されている。一方で、病態に即した的確な治療も可能になってきており、早期に発見されれば治癒率は高くなっている。東京女子医科大学呼吸器外科の村杉雅秀准教授は、小さな傷をつけるだけでがん細胞を切除する手術など最新の肺がん治療を紹介するとともに、早期発見の重要性を訴えている。
「肺がんは肺の奥にできる腺がん、喫煙と深い関係のある扁平上皮がん、極めて進行の早い小細胞がんに大別されますが、がんが3センチ以下の場合は手術、それ以上になると手術に加え、抗がん薬が用いられます。2センチ以下で発見された場合は、5年生存率は9割以上に達しているので、何よりも早期発見が大切です」と話す。
肺がんは早期には全く症状はない。早期発見には40歳以降は年1回、人間ドックで喀痰(かくたん)、胸部レントゲン、コンピューター断層撮影装置(CT)による検査を受けることが勧められる。「がんの検査法の一つであるPET(陽電子放射断層撮影)で問題ないからと安心する人もいますが、肺がんの場合はPETは万能ではないので過信しないでください」。
治療は、早期のケースではこれまでのように大きな傷で肺を大きく取るのではなく、小さな傷で小さく取る手術も行われるようになってきている。また、進行したケースでもがんの種類に応じて的確な抗がん薬が用いられるようになってきた。
腺がんを中心とした非小細胞がんは、数年前から「分子標的治療」という遺伝子レベルでの治療薬の有効性が認められている。「腺がんは日本人の肺がんで最も多く、約6割を占めています。このがんには分子標的治療薬のゲフィチニブとエルロチニブ、それに新たに承認されたベバシズマブが有効です」。
がん細胞の遺伝子に変異が認められるケースでは、分子標的治療薬の有効率は82%に達するという。「腺がんが進行した状態で見つかっても、治療法は進歩しているので医師に組織診断をきっちりつけてもらい、自分の病態に合った治療法を選択してください。ただ、分子標的治療薬は副作用の問題もあるので専門医による治療が必要です」。副作用の中で最大の注意が求められるのが間質性肺炎。重症化しやすく、生命にかかわる危険性がある。かかりつけの医師とよく相談するとよい。