脳卒中の約10%を占めるくも膜下出血は、突然に命をおびやかす、極めて怖い病気です。頭部外傷に伴う外傷性くも膜下出血については、本稿からは除外して、脳血管障害としてのくも膜下出血について解説します。
くも膜下出血の原因として、最も頻度が高く、よく知られているのが脳動脈瘤の破裂です。他に、脳動静脈奇形からの出血などがありますが、ここでは頻度の高い脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血に焦点を当てて取り上げます。脳動脈瘤は約2~3%の人が持っているとされ、その破裂率は年間に0.7~2%とされています。年間に10万人中10~20人がくも膜下出血を発症するといわれています。
くも膜下出血の治療の難しさは、開頭手術あるいは血管内治療(「脳卒中の急性期治療」、「未破裂動脈瘤」参照)によって動脈瘤の処置を無事に終えたとしても、それは初期治療の1つのヤマを越えたに過ぎず、まだまだやっかいな問題が控えているところにあります。
すなわち、くも膜下出血に特徴的な脳血管れん縮という、脳の太い血管が細くなる現象がしばしば起こるため、この時期に脳梗塞をいかにくい止めるかという課題をクリアする必要があるのです。通常、脳血管れん縮は出血後4~14日の間に起こり、その現象は7~10日ぐらい持続します。
したがって、くも膜下出血の治療は発症してから2~3週間はずっと緊張感をもって集中的に行われ、発症1カ月したところでやっと一段落といった感があります。水頭症といって、脳脊髄液の循環や吸収が障害されることによって起こる合併症が生じた場合には、さらに脳室・腹腔シャントという手術を行って治療するのが一般的です。
最も典型的な症状は、よく、「ハンマーで殴られたような」とか、「今まで経験したことのない」と表現される突然の頭痛です。「風邪をひいたような頭痛」を訴えることもありますが、ほとんどが前者のような激しい突然の頭痛を呈します。
さらに、出血の程度により、脳圧が上がり、呼吸が止まって即死する方、意識障害を起こして救急車で搬送される方から、比較的軽症で、頭痛のみを訴えて日中の外来を歩いて受診する方まで重症度は様々です。
軽症例を除きますと、通常は救急車で病院に搬送されることが多く、しばしば脳圧上昇を示す血圧上昇や嘔吐がみられます。動脈瘤が再破裂を起こすと通常は重症化します。消化管出血や肺水腫などを合併することもあります。