下痢や腹痛の中には原因がはっきりせず、慢性的に症状が続くケースがある。その代表的なものが、潰瘍性大腸炎だ。社会保険中央総合病院(東京都)の高添正和副院長は「下痢や腹痛、血便などが長期間続いた場合、念のため医療機関で専門的な検査を受けてください」と勧める。
潰瘍性大腸炎は根本的な治療法が確立しておらず、一時的な寛解(症状の軽減)と再発を長期間にわたって繰り返すことが多い。このため、日本では国によって特定疾患の一つに指定されている。欧米では昔から比較的多く見られているが、日本でも1980年代中頃から急激に患者数が増え始めた。特定疾患医療受給者証の交付件数によると、患者数は2006年度で約9万人となっている。
「本来、細菌などの外敵を攻撃する免疫機能が異常を起こし、自分を攻撃して起こる病気を自己免疫疾患といいますが、潰瘍性大腸炎はこれが腸管で発生し、慢性的な炎症を起こすといわれています。原因についてはウイルス感染、遺伝的要因など諸説あり、食事や生活習慣、ストレスなどの後天的要因も複雑に影響していると考えられます」。
この病気の特徴の1つが発症年齢の若さで、20歳代がピークとなっている。ただ、50歳代で発症する例も少なくなく、若年層特有の病気ということではない。軽症の場合、下痢、粘血便、しぶり腹(便が出そうで出ない)などの症状が表れる。重症になると、強い腹痛や下血、発熱、体重減少、貧血なども見られる。
治療法として最も一般的なのが薬物療法だ。副作用が少ない抗炎症薬を中心に処方されるが、症状の進行に応じてステロイド薬、免疫調整薬も使われる。白血球除去療法は、中等症以上の場合に行われる。
静脈から持続的に血液を体外に取り出し、その中から活動性の強い免疫細胞だけを取り除いた上で、血液を体内に返すという人工透析の原理を応用した方法だ。これらの治療法でも効果が期待できないケースや重症例では、手術による大腸の摘出も検討される。