患者さんの中には、いくら先生がやさしくても治療が痛いから歯医者さんには行けない、という人もいます。このような場合に考えられるのは、歯科医師の麻酔の技術が未熟だったのではないかということです。結果的に痛い思いをしてしまい、医師に対する不信感や不安よりも、治療そのものが怖くなってしまうのです。
近年、歯科治療の技術は目に見えて向上してきました。痛みを軽減するために、治療で使用する器具もさまざまなものが開発されています。歯医者さんに通っている人の中には、「近ごろの治療は昔と違ってまったく痛くない」と感じている人もいるほどです。
麻酔は手術などに際して、痛み刺激を与えてもまったく痛みを感じなくする方法をいいます。麻酔は、歯医者での抜歯や火傷や怪我の治療、ほとんどの外科手術で普通に行われます。麻酔には、身体の特定の部位だけが痛みを感じなくする「局所麻酔」と、全身のどこに痛み刺激を加えても本人は何も感じなくなる「全身麻酔」とがあります。
しかし、痛みに対する恐怖が大きいと、実際よりも痛みを感じるようになってしまいます。過去の治療で感じた痛みがよみがえってきて、少しの痛みにも過剰に反応してしまうのです。麻酔の技術が未熟なために患者さんが痛い経験をして、それが歯医者さんに行けなくなった原因だとしたら、やはり医師の側に問題があります。患者さんの痛みを軽減するために麻酔の技術を磨こうという意識がなかったのかもしれません。
多くの歯科医師が「これまでこの方法でやってきたのだから、これからも同じようにやっていくのだ」という固定観念を持っています。自分が慣れているやり方で治療を行う方が、失敗のリスクは軽減されることでしょう。
歯医者さんでの抜歯や歯茎の手術、お尻にできたおできの治療などの比較的軽い処置を行うときに使用され、本人は意識もあり痛みは感じませんが皮膚などを切開する時のジョリジョリする音は聞こえます。
一方、全身麻酔は、盲腸の手術や大きな火傷の手術、そのたいわゆる外科手術と呼ばれるような手術では普通に行われます。全身麻酔では患者は手術開始の直前に麻酔処置を受けて昏睡状態となり、次に気が付くと手術が終わっているという感じになります。
抜歯や歯の歯石除去など簡単な処置時の麻酔としては、麻酔薬を局所に直接注射します。本格的な手術を局所麻酔で行う場合には、「脊椎麻酔法」や「硬膜外麻酔法」が行われます。また、完全に昏睡状態にする全身麻酔は「麻酔薬点滴法」により行われます。
しかし、それが患者さんにとってベストな治療かどうかというのは、また別の問題です。結局、患者さんの不安や怖れは置き去りにされたままになってしまいます。痛みを伴わない、怖くない治療のために、麻酔の技術を駆使することは、私としては大切なことだと思います。