顎の骨の骨折の中でも多い下顎骨骨折にしばしば合併するものに顎関節突起の骨折があります。従来の手術では、耳の前や顎の下など顔の皮膚を切る必要がありました。内視鏡を補助的に用い、口の中からの切開のみで骨折部位を固定します。この方法では、顔に傷あとが残らないばかりか、手術後、まれに生じる合併症である顔面神経麻痺などの危険性がなく、また、食事がとれるようになり、入院期間も短くなります。
むし歯、歯槽膿漏からの炎症が、上顎洞に及び、上顎洞炎を起こすことがあります。これを歯性上顎洞炎といいます。従来治療では、原因となる歯を抜いたり、歯の神経を治療するとともに、口の粘膜を大きく切り開き、頬(ほほ)の骨を大きく削って、その骨の穴から、炎症を起こしている粘膜を摘出していました。この手術では「手術をしても痛みが続く」「術後に歯が浮いた感じがする」など不評なことも、まれにありました。
そこで昭和大学歯科病院口腔外科では、近年、耳鼻科領域でも行われている硬性内視鏡を使った手術を応用しています。口の中に約2cmの穴を開け、そこから内視鏡を入れ、内視鏡で上顎洞粘膜を観察しながら、非常に細い器具を使い、洞内を洗浄したり、炎症を起こしている患部粘膜を取り除くようにします。この方法だと患者の負担が小さく、お年寄りでも手術できます。内視鏡はビデオカメラに接続し、テレビモニターをみながら手術を進めるため、内視鏡を容易に操作できます。
唾石とは、唾液を作る臓器である唾液腺から口の中に唾液を運ぶ管の中に石ができることをいいます。唾石ができると、唾液が出る際の障害となるばかりでなく、唾液が唾石のために流れ出ることができずに唾液腺のなかに留まり、食事などの度ごとに唾液腺が腫れて痛みます。
我々の施設では、かなり深部にあるものも口のなかから切開して導管を明示し、取り除いています。導管の周囲には神経や血管があり、口のなかから取り除くことは難しい場合もあり、首の皮膚を切って顎下腺とともに唾石を取り除く施設もあります。しかしながら、私たちの施設では、低侵襲治療を心がけており、ほとんどの症例で口のなかから取り除く方法をとっています。