歯周病によって早産や低体重児出産のリスクが高まるメカニズムは、次の2つの経路が考えられています。口の中に歯周病原細菌が増えると、免疫細胞から血液中に炎症性サイトカインという情報伝達物質が産出され、その刺激でプロスタグランジンという物質の分泌が促されます。
プロスタグランジンには子宮を収縮させ陣痛を引き起こす作用があることから、早期に頸管熟化と子宮収縮が引き起こされ、その結果、早産につながるというものです。わが国最初の報告においても、同様の結果になっています。
次に、産科器官への歯周病原細菌の直接感染が考えられます。このことは、動物モデルを用いた研究において、歯周病原細菌を感染させると、胎盤や胎児に伝播することが確認されています。
歯周病が早産や低体重児出産のリスクである可能性や動物実験の結果から、歯周病に罹患した妊婦さんへの歯周病治療の介入が行われてきています。Lopezら(2001年)は、歯周病治療(口腔清掃指導と局所麻酔下でのスケーリング)により、早産や低体重児出産の出生率が、歯周病治療を受けない群10.1%に比べて、1.8%と有意な改善効果があることを最初に報告しました。その後、多くの追試報告があり、同様に、メタアナリシス研究(Polyzosら、2009, 2010年、Uppalら、2010年)が行われてきています。
その結果、現時点では、歯周病治療による早産や低体重児出産のリスクに対する効果は、ボーダーライン上で、最終的な結論をだすには、質の高い大規模研究が必要です。しかし、妊婦さん達は、結論を待てませんから、口腔ケアに留意して、歯周病のリスクを回避しておくことが大切です。
う蝕(虫歯)や歯周病がある場合は、妊娠前に治療を終えておくのが理想です。そして、妊娠中にう蝕(虫歯)や歯周病にならないためには、毎日の口腔ケアを念入りに行う必要がありますが、普段どおりにはいかない場合も多いでしょう。つわりで歯を磨くのがつらいときは、少しでも不快感を軽減するために、次のことを試してみてください。
●ヘッド部分の小さな歯ブラシを使う。
●できれば歯磨き剤なしでブラッシングする。
●やや前屈みになってブラッシングする。
口腔ケアを行っていても、妊娠中に歯の痛みや歯肉(歯ぐき)の腫れ・出血などが起こった場合は、放置せずに早めに歯科医に相談しましょう。初期段階の歯肉(歯ぐき)の炎症であれば、クリーニングで歯垢(プラーク)を取り除けば炎症が抑えられます。一般的には、妊娠初期や後期は応急処置にとどめ、比較的安定している妊娠中期に、麻酔が必要なう蝕(虫歯)の治療などを行うことが多いようです。
この時、おなかの赤ちゃんへの影響が気になるかもしれませんが、歯科治療では局所麻酔を用いますし、X線撮影も胸部や腹部はX線から体を防護する鉛のエプロンで覆うので、まず心配はいらないでしょう。ただし、母体やおなかの赤ちゃんの健康状態などによっても対応が異なるので、あらかじめ歯科医に妊娠中であることを伝えるようにしてください。