身体表現性障害やうつ病などの精神疾患によって、歯の痛みが起こることがあります。身体表現性障害は、検査をしても異常が見つからないにもかかわらず、痛みなどの身体的な症状が長期間続く病気です。
自分が何か重い病気にかかっているのではないかと恐怖感にとりつかれる「心気症」、身体的な異常がないのに強い痛みが続く「疼痛性障害」、30歳以前に生じたさまざまな身体的な症状が、何年にもわたって持続する「身体化障害」などがあります。
たとえば、「歯がむずむずして、歯の中を虫が走っているから、早く歯を抜いてください。」と繰り返す50歳代の女性や、「磨いていないと歯が抜けそうなんです!」と1日何時間も歯間ブラシをやり続け、歯肉がえぐりとられた40歳代の男性の方がみえました。精神疾患が原因の場合は、それぞれの病気に応じて、抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法、認知行動療法などが行われます。
原因不明の慢性的な歯の痛みを、「非定型歯痛」あるいは「突発性歯痛」といい、40歳代の女性に多くみられます。歯の痛みが生じるきっかけがある場合も、ない場合もありますが、きっかけがある場合の多くは、歯科治療のあとに痛みが始まり、痛みをコントロールしようと抜髄や抜歯をしても痛みは続きます。さらに、痛みがほかの歯に飛び火したり、顔にまで広がることもあります。
原因にはいくつかの説がありますが、今のところ、中枢神経系の痛みを処理する過程に何らかの異常があるのではないか、という説が有力です。非定型歯痛には鎮痛薬は効かず、三環系抗うつ薬単独か、抗精神病薬との併用が有効であることがわかっています。安易な歯科治療は、無効であるばかりでなく、むしろ症状を増悪させることも多いため、薬物治療が奏効するまでは、歯科治療はなにもせずに保留にしておくことが重要です。
非歯原性歯痛は歯科だけで治療することが困難なケースが多いため、頭痛なら神経内科、上顎洞炎なら耳鼻咽喉科、心因性のものなら精神科といったように、ほかの診療科での治療が必要になることもあります。
最近では、大学病院を中心に、歯や顔の痛みを専門とする外来を設けている医療機関も増えてきています。なかなか治らない歯の痛みに悩んでいる人は、一度受診してみてはいかがでしょうか。