「やわらかいものばかり食べているから歯並びや噛み合わせが悪くなるんだよ。」などと言われたことはありませんか?歯医者でそう言われてしまったお母様方も少なくないでしょう。確かに食生活が変わってきて、やわらかい食べものを多く食べるようになった現代、先進諸国などを中心にどんどん顎の骨が小さくなってきています。
数世代という長い目で見れば間違った考えではありませんし、根本はそこにあることも事実です。でもあなたのお子様が固い物を食べないから、よく噛まないからということが歯並びが悪くなってしまう大きな原因ではありません。
それだけが原因というのであれば、お父さん、お母さんが子どもの時によく噛んで食事をしていなかったことを反省すべきかもしれません。とはいえ、固い食べものをよく噛んで食べさせることは、「よくものを噛んで食べないと、おデブさんになったり、病気になったりしてしまうよ」と教えることになり、「食育」として重要なことですし、将来の自分の子孫達が良い歯並びや噛み合わせを得るためには大変重要なことです。
なぜ歯並びが悪くなってしまうのでしょうか。みなさんのなかには、「こういう歯や顎の形に生まれてしまったのだからしかたないわ」と、体質のせいにして諦めている人もいるのではないでしょうか。しかし歯並びは遺伝や体質というよりも、生活習慣で悪くなることのほうが圧倒的に多いのです。
そもそも歯並びが悪くなるのは、私たち現代人にとって宿命のようなものです。木の実や肉や魚を生で食べていた古代の人たちに、一人も不正咬合はありませんでした。縄文時代の人たちの、あのガッチリした顎を見ればわかるでしょう。親知らずも含めて、永久歯32本が全部、顎の骨にきっちり並んでいたのです。
ところが今や、三割の人は親知らずが生えてこないといわれています。生えてきても歯列からはずれてくることがほとんどで、その歯を咀嚼に使っている人は数えるほどしかいません。
なぜかといえば、柔らかく煮炊きしたものばかり食べているので、顎がどんどん小さくなっているからです。硬いもの、噛み切りにくいものは、しっかり歯を食いしばり、何度も何度も噛んですりつぶさなければ食べられません。それだけ顎は大きく成長します。
ところが、柔らかいものばかり食べてあまり噛まないと、顎が発達する余地がありません。狭くて華奢な「く」の字型の顎になってしまい、そこに32本の歯が並び切らなくなってしまいます。とりわけ、現代人は乳児のときから十分な栄養を得て、歯が大きくなっているので、いっそう納まりきらなくなっているといっていいでしょう。
その結果、スペースがないために歯は歯列からはずれたり、ほかの歯と重なって生えて、乱ぐい歯になったりします。しかもなかには、歯が垂直ではなく、斜めに生えている人もよく見かけます。