歯には弱い力を長時間かけ続ける事で動く性質があります。歯の根の周りには弾性のある膜、歯根膜があり、矯正治療ではこの歯根膜の性質を利用して歯を動かします。
動かしたい歯に一定の力を加え続けると歯根膜が圧迫され軽い炎症をおこす。この炎症で周囲の骨が少しずつ溶けそれによって出来た空間に歯が移動する。その反対側の骨では、歯根膜が引きのばされ新たな繊維や骨が出来ていく。これを繰り返しながら歯は歯ぐきの中つまり骨の中を移動していく。かたい物をかみ砕くことのできる頑丈な歯が、どうして矯正治療によって動くのでしょうか?そして、なぜ長い時間がかかるのでしょうか?
それは、矯正治療によって身体が元々持っている『骨の代謝機能』を利用して歯を動かすからなのです。骨は、一定以上の圧力がかかると吸収という現象を起こして、骨を溶かして圧力を軽減しようとします。また、スペースの空いたところでは、骨が新しく作られてスペースを埋める働きを持っています。
骨の代謝機能を利用することで、歯は1ヶ月で約0.3ミリ移動することができます。しかし、矯正治療を受ける患者さんの歯を見てみると、平均して4.0ミリの移動が必要です。4.0ミリを動かすのに1年以上かかるのです。時間はかかりますが、身体が元々持っている機能をうまく利用するので、歯に負担をかけずに治療をすることができます。
ところで、歯列矯正とはどんな治療なのでしょうか。そもそも、こんなしっかりと顎の骨に埋まっている硬い歯が動くこと自体、不思議に思われている人も多いのではないでしょうか。 いったい歯がどのように移動するのか、そのメカニズムをまず説明しておきましょう。
歯は歯槽骨という骨に埋まっています。骨に埋まっている歯根部は、歯根膜という弾力のある薄い膜におおわれ、骨とつながっています。この歯根膜はちょうどクッションのような役目を果たし、歯に加わる衝撃を和らげたり、微妙な圧力を感知したりします。 じつは歯の移動にも、この歯根膜が重要な役割を担っています。
歯を動かすには、動かしたい方向に歯に力を加えます。すると、どのような方向でも、動いていく側の歯根膜は歯に圧迫され、離れていく側の歯根膜は歯に引っ張られるという二つの現象が起きます。
骨には、骨を壊す破骨(はこつ)細胞と骨を合成する骨芽(こつが)細胞がありますが、圧迫される側は破骨細胞によって骨が破壊され、離れる側は骨芽細胞によって新しい骨がつくられます。
人の骨は体重を支えるとともに筋肉の動きの支点となっておりこの進化で人は立って歩けるようになったのです。骨には他に重要な役割があります。血液中のカルシウム量を一定に保つための貯蔵庫としてそして血液細胞を産生する骨髄もここに存在します。
これにより、骨は人間の成長後も骨吸収と骨形成を繰り返し、その機能を維持しています。
骨は海綿骨とそれを取り巻く皮質骨から出来ておりさらにそれらを骨膜がすっぽり覆っています。骨膜には骨をつくる細胞や神経や血管が豊富に分布しています。
この骨をつくるのが骨芽細胞。逆に古くなった骨を壊したりカルシウムを供給するのが破骨細胞です。ホルモンの作用などによって活性化された破骨細胞は骨表面に集まり骨のミネラルを溶かし破壊し始めます。
荒れた骨表面は貧食細胞によりきれいにされます。この動きを察知した骨表面の休止期の骨芽細胞が活動を始めコラーゲンを作ったり、ハイドロキシアパタイトの沈着をおこなって骨形成をおこないます。骨形成を終えた細胞は再び骨の中に待機して次の活動の機会を待ちます。以上の一連の流れを、破骨細胞と骨芽細胞のカップリングによる骨のリモデリングと言い、1サイクルが3ヶ月以上とも言われています。